
ここ数年で、私たちは驚くべき速度で「創造の自動化」を目の当たりにしている。
AIは詩を書き、絵を描き、音楽を作り、映画の脚本まで生み出すようになった。
つい昨日まで「人間にしかできない」と信じられていた領域が、次々と機械によって再現されていく。
この変化は、多くのホワイトカラーにとって不安の源でもある。
AIがこれほどの表現力を持つのなら、自分の仕事はどこに価値を見いだせばいいのか。
AIに任せられるタスクが増えるたびに、人間の居場所は少しずつ狭くなっていくのではないか。
そんな思いが、静かに社会を覆い始めている。
だが、私はこの状況を「危機」ではなく「転換期」と捉えたい。
AIが人間の仕事を奪うのではない。
むしろ、AIが私たちの思考の惰性を奪ってくれるのだ。
定型業務、論理的処理、効率的な最適化——それらは機械のほうが上手にこなす。
だからこそ、いま人間が向き合うべきは「どう生きるか」「何を表現するか」という、より根源的な問いなのである。
AIが得意なのは「正解を出すこと」である。
そして人間が本来得意なのは、「問いを立てること」である。
このふたつは似ているようで、決定的に違う。
AIは、過去の膨大なデータから最も確からしい答えを導く。
一方で、人間は「なぜそれを問うのか」という理由を自らの中に見つけようとする。
アーティストとは、この問いを生きる人々のことである。
アーティストは誰かに「これを作れ」と言われて動くのではない。
社会の中で見過ごされている感情や矛盾を拾い上げ、
それを自分なりの形に変換し、世界に投げ返す。
そこに明確な答えはない。
ただ、「これは私にしか見えなかった景色だ」と信じる勇気があるだけだ。
この姿勢こそ、AI時代を生きるうえで最も必要なものだと思う。
私たちは「正確に再現する力」よりも、「独自に解釈する力」を鍛えるべき時期に来ている。
なぜなら、AIが“答え”を供給してくれる社会では、人間の価値は“解釈”に宿るからである。
アーティストは、効率の対極を歩んでいる。
彼らは「無駄」や「偶然」や「寄り道」の中に、新しい発見が潜んでいることを知っている。
完璧な線よりも、震えた線の中にこそ“人間の証”がある。
AIが描いた絵がいかに精密であっても、そこに「揺らぎ」や「ためらい」は存在しない。
だからこそ、アートはいつの時代も人間の営みであり続けるのだ。
ビジネスの世界でも、同じことが言える。
いま求められているのは「成果を出す人」ではなく、「世界を読み替える人」である。
アーティストのように、自分の目で現実を見つめ、自分の言葉で意味を再構築できる人こそが、AI時代の真のプロフェッショナルになる。
アーティスト的に働くとは、芸術家になることではない。
それは、世界をただ“処理”するのではなく、“感じ直す”勇気を持つことである。
効率よりも洞察を、スピードよりも想像を、マニュアルよりも直感を信じる働き方である。
AIが人間の代わりに書き、描き、語る時代だからこそ、人間は「なぜ描くのか」「なぜ作るのか」を問われる。
それは単なるスキルの問題ではなく、存在の問題である。
つまり、あなたは何をもって生きるのかという問いに直結している。
アーティストはこの問いを、作品という形で応答してきた。
私たちはそれを仕事という形で応答すればいい。
タスクをこなすのではなく、問いを生きる。
それが、AI時代における最も人間的な働き方である。
AIがどれほど進化しても、「感動」を創り出すことはできない。
それは、意味のないものに意味を与えるという人間の特権だからだ。
アートの力とは、世界を“もう一度見る”力である。
そしてその力を、自分の仕事に取り戻すこと。
それこそが、これからの時代に最も必要な“アーティスト的仕事術”なのである。
AIが効率と最適化の象徴なら、今週末から開催の有村佳奈の個展「REAL」はその逆である。
彼女の作品は、正解のない世界を恐れずに見つめ続けることで生まれている。
その姿勢は、AI時代に生きる私たちへの示唆でもある。
数値では測れないものに価値を見出し、誰も見ていない角度から世界を描く——それこそが、これからの時代に必要なアーティスト的仕事術である。
「REAL」は、そんな未来の生き方を静かに教えてくれる展覧会である。
10月31日(金)からtagboatにて個展「Real」を開催いたします!
有村佳奈「Real」
2025年10月31日(金) ~ 11月18日(火)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日の10月31日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:10月31日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F